CATツールを論ずる上で、重要な要素がいくつかあると思いますが、私は主に3つの要素に集約されるのではないかと考えます。


フィルタ

翻訳という業務を考えるとき、どのような手法で翻訳するかに関わらず必ず存在するのが「原文ファイル」、すなわち翻訳対象のファイルです。昨今、翻訳対象文書のファイル形式はさまざまで、MS Word ExcelPowerPoint などのMS Office 系の文書から、HTML XML などのマークアップ言語、 InDesignなどの DTP ソフトのファイルなど多岐に渡ります。これらさまざまなファイル形式のデータから、翻訳対象のテキストのみを抽出し、それを翻訳後に元のファイル形式に訳文を入れ込んで戻すという操作が必要です。これが「フィルタ」機能です。

どれだけのファイル形式に対応できるか、どのようなオプション設定ができるか、あるいはエラーなく操作を完了できるか、という点が重要となってきます。

以前、某国産CATツールの調査をするために操作説明書を入手して読んだところ、フィルタ機能について触れている箇所がなく、不思議に思って何度も読み返していたところ、翻訳対象テキストは元のアプリケーションからコピー &ペーストでテキスト領域に貼り付ける仕様になっていて、驚いた記憶があります。フィルタ機能を搭載していないツールは、そもそもCAT ツールとは呼べないかと思います。


エディタ

フィルタ機能で翻訳対象の原文テキストを抜き出したら、今度はその抜き出した原文テキストに対して、決められた単位(多くの場合分節単位で)訳文を当てていきます。これがエディタ機能です。翻訳者の方が一番触れている時間が長く、且つ効率化に大きく影響を受ける部分ではないでしょうか。

バイリンガルデータの見せ方、翻訳メモリなどの翻訳資産の参照の仕方や訳文への反映方法、検索・置換機能、分節の抽出方法(これもフィルタ機能と呼ぶこともあります)など、作業を効率化するための機能がどれだけあり、使いやすいかが問われます。


データベース

対訳のデータベースである翻訳メモリや用語のデータベースである用語ベースを参照しながら訳文を作成・編集するのが、CAT ツールの肝ですので、重要な要素であることは間違いありません。基本的には自動的に同じもの、類似したものをこれらのデータベースから検索してくれるものですが、ユーザー側が能動的に検索をかける(「訳語検索」とか「コンコーダンス検索」とか呼ばれています)場合の使い勝手やオプション設定なども重要です。また、近頃は翻訳メモリの分節をさらに単語単位やフレーズ単位に分割して一致要素をを自動的に提示してくれる機能(「フラグメント一致」

とか「サブセグメント一致」などと呼ばれています)も搭載されるようになりました。


CATツール = 翻訳メモリ」なのか

CATツールを巡る議論の中で、この3つの要素を総合的に見て論じたものを見たことがありません。 CATツールというと、とかく翻訳メモリの是非のみに焦点を当ててしまいがちなのが残念です。

かつての Trados であれば、CAT ツール = Trados = Translator's Workbench = 翻訳メモリという図式が成り立っていたのでわからないことはないのですが、CAT ツールは翻訳メモリの参照ツールであった時代は既に過ぎ去り、総合的な翻訳支援と翻訳管理を司るツールに変貌しているのです。


本ブログでは、できるだけこのような総合的な観点から CAT ツールを論じてみたいと思っています。